種類株式の例

種類株式は、以下の9つ権利について異なった株式を発行することが可能です。
もちろん、9つの権利のうちいくつかの権利を重複して付与したり、いくつかの権利を制限または剥奪をした株式を発行することも可能です。

  1. 剰余金の配当
  2. 残余財産の分配
  3. 議決権制限種類株式
  4. 譲渡制限種類株式
  5. 取得請求権付種類株式
  6. 取得条項付種類株式
  7. 全部取得条項付種類株式
  8. 拒否権付種類株式
  9. 種類株主総会において取締役または監査役を選任することができる種類株式

種類株式を発行する場合には、必ず、各種類株式ごとの発行可能株式総数も一緒に定款で定めてく必要がありますので、種類株式の発行の定款変更決議のときにあわせて定款変更をしてください。その定款の記載方法を下記に、記載しておきます。

(発行可能種類株式総数)
第○条 当会社の発行する株式の総数は、1万株とし、このうち7,000株は普通株式、3,000株はA種類株式とする。

また、種類株式を発行した場合には、原則として、通常の株主総会(普通株式を有する株主と種類株式を有する株主が出席する株主総会のこと)のほかに種類株主総会(種類株主だけが出席する株主総会)を開催しなければならなくなります。通常の株主総会だけだと、種類株式の株主にとって不利な定款変更がされる恐れがあるからです。ただし、定款で下記のような定めをしておけば種類株主にとって不利な定款変更をする場合を含めて、あらゆる決議を通常の株主総会の決議だけで終わらせることができます。通常の株主総会と種類株主総会の2回株主総会を開くことは、会社にとって負担となりますので、是非定めておいてください。その定款の記載方法を下記に、記載しておきます。

(種類株主総会の決議を要しない事項)
第○条 当会社が、会社法第322条第1項に規定する行為をする場合においては、A種類株式の株主に損害を及ぼすおそれがあるときであっても、当該種類株主総会の決議を要しない。
ココに注目 既存の普通株式を種類株式に転換できるか? 今現在、種類株式を発行していなくて普通株式のみ発行している会社であっても、発行済みの普通株式を種類株式に転換することは可能です。
たとえば、普通株式2,000株を発行している会社が、普通株式2,000株のうち、1,000株だけを今までどおり普通株式とし、残りの1,000株をA種類株式に転換してしまうことが可能なのです。
ただし、この場合には、株主の利益を害する可能性があるので、この転換をするためには、総株主の同意によって定款変更することが必要です。

会社法施行により、可能になった9種類の株式のうち、中小企業の経営上すぐに導入を考えてもよい3種類

  1. 剰余金の配当についての種類株式を発行する場合の定款変更
  2. 議決権制限株式
  3. 拒否権付種類株式

の3つを紹介します。この3つ種類株式は、中小企業の事業承継等で使い勝手の良い種類株式です。
ただし、種類株式を発行する場合には、税務上の問題を税理士または税務署に確認してから行ってください。会社法で許されていることと、課税上の問題はいうまでもなく別問題です。税務上の問題は、ケース・バイ・ケースであり個々の会社の状況によっても違ってくると思います。種類株式は、中小企業の事業承継で、大いに活用できるのですが、この点だけ充分注意しておく必要があります。

(1)剰余金の配当についての種類株式を発行する場合の定款変更

剰余金の配当つまり株主に対する株式会社からの利益の分配について、普通株式よりより多く配当したり、逆に普通株式より少ない配当にしたりする株式のことです。剰余金の配当をまったく与えない種類株式も発行可能です。
この種類株式を発行する場合には、当該種類の株主に交付する配当財産の価額の決定の方法、剰余金の配当をする条件その他剰余金の配当に関する取り扱いの内容を定款で定めなければなりません。

1.剰余金の配当について普通株式に優先する種類株式を発行する場合。

この種類株式は従来からあった優先株式と同じです。ある一定の株主に普通株主よりも多くの配当をしたい場合に発行します。この優先株式に議決権を与えないと、旧商法でよく発行されていた「議決権なき優先株式」となります。会社法でも、もちろんこの「議決権なき優先株式」を発行することもできますが、議決権について制限を設けなくとも発行することができます。

(A種類株式)
第○条 A種類株式は、剰余金の配当について普通株式に優先する。当会社が剰余金を配当する場合には、金銭を配当するものとし、A種類株式1株に対して普通株式1株に対する配当額の1.2倍の金銭を配当するものとする。
なお、1株につき1円に達しない端数が生ずる場合は、その端数は切り捨てる。
(2)当会社が、会社法の規定により剰余金の配当ができない場合には、A種類株式についても、配当しないものとする。

2.剰余金の配当について普通株式に劣後する種類株式を発行する場合

この種類株式は従来からあった劣後株式と同じです。ある一定の株主に普通株主よりも少なく配当をしたい場合に発行します。
劣後種類株式は、募集株式(新株発行)によって資金調達を行う場合に、普通株式をよりも払込金額(新株の発行価額)を低く抑えることがでるといった利点があります。

(A種類株式)
第○条 A種類株式は、剰余金の配当について普通株式に劣後する。当会社が剰余金を配当する場合には、金銭を配当するものとし、A種類株式1株に対して普通株式1株に対する配当額の0.5倍の金銭を配当するものとする。なお、1株につき1円に達しない端数が生ずる場合には、その端数は切り捨てる。

3.剰余金の配当について無配当株式を発行する場合

完全無配当株式です。この種類株式も2の劣後株式同様に、募集株式(新株発行)によって資金調達を行う場合に、普通株式をよりも払込金額(新株の発行価額)を低く抑えることがでるといった利点があります。

(A種類株式)
第○条 A種類株式は、剰余金の配当について当会社が他の種類の株主に剰余金を配当する場合であっても、A種類株式の株主に対して配当を行わない。

(2)議決権制限株式

この議決権制限株式とは、株主総会において議決権を行使できる事項に関して制限を加える種類株式です。かつては、この議決権制限は、(1)で紹介した「優先株式」に限って発行できるとされていましたが、現在では、特に優先株式以外の株式の議決権を制限しても特に問題ありません。つまり、議決権以外については、普通株式とまったく同じで、議決権だけを制限されている種類株式を発行することもできるのです。
この議決権制限株式は、事業承継での活用が大いに期待されています。すなわち、会社経営者に複数の相続人が存在し会社の株式を、各相続人に分割して承継せざるを得ない場合でも、事業を承継しない後継者の株式だけを議決権制限株式にしておけば、経営権が確保されるのです。
しかも会社法の施行により、非公開会社においては、この議決権制限株式の発行数の制限がなくなりましたので、理論上、1株以外をすべて議決権制限株式とすることも可能となりました。事業承継について悩んでいらっしゃる経営者の方は是非、議決権制限株式の発行の検討をすべきです。
なお、この議決権制限株式を発行する場合には、(1)株主総会において議決権を行使することができる事項、(2)当該種類の株式につき議決権の行使の条件を定めるときはその条件を定款で定めなければなりません。
一定の決議たとえば、合併や会社分割といった組織再編行為の決議にだけ参加でき、他の決議には参加できないというような株式を定めてもかまいませんし、完全に議決権を剥奪するいわゆる「無議決権種類株式」の発行も可能です。

1.取締役および監査役の選任ならびに解任についてだけ議決権を行使することができる議決権制限株式を発行する場合

(A種類株式)
第○条 A種類株式を有する株主は、取締役および監査役の選任ならびに解任について議案についてのみ決議を行使することができ、他の議案については議決権を行使することができない。

2.完全無議決権株式を発行する場合

(A種類株式)
第○条 A種類株式を有する株主は、株主総会において決議すべきすべての議案について議決権を有しないものとする。

(3)拒否権付種類株式

この拒否権付種類株式とは、簡単にいうと株主総会等で決議された事項を一握りの種類株主だけで否決できる種類株式のことです。その内容から黄金株式とも呼ばれています。
株主総会や取締役会の全ての事項に拒否権を与えることも一部の決議事項(たとえば、合併決議など会社再編にかかわる事項)についてだけ拒否権を与えることが可能です。普通株式(議決権)の大半を後継者に譲った後も、この拒否権付種類株式を保有していれば、実質的に経営権を失うことにはなりませんので、中小企業の事業承継などに大いに活用できると期待されています。
たとえば、中小企業経営者が、普通株式の過半数以上を、後継者である長男に生前贈与した場合でも、1株でもこの拒否権付種類株式を保有していれば、株主総会および取締役会で決議された事項のすべてを、否定できるわけですから絶大な発言権を保持しつづけることが可能となるわけです。
実はこの拒否権付種類株式は、旧商法時代から存在していたのですが、株価について税務上どう取り扱うかについて、明確な指針が税務当局からなされなかったため、あまり活用されていなかった側面もありました。しかし、最近になって、普通株式と同様に扱う旨の通達が出たので導入を検討してみてはいかがでしょうか?ただし、念のため税務上の問題を税理士または税務署に確認してから行ってください。
また、上場する企業はこの株式の発行が禁じられていますので注意してください。
拒否権付種類株式を発行する場合には、(1)当該種類株主総会の決議があることを必要とする事項、(2)当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めたときは、その条件を定款で定めなければなりません。

1.ある一定の決議について拒否権を与える種類株式を発行する場合

ある一定の決議(本例は、合併等の組織再編)について拒否権を与える種類株式を発行するための定款の定め方です。

(A種類株式)
第○条 当会社が消滅会社等となる、吸収合併等又は新設合併等を行う場合においては、A種類株式を保有する株主の種類株主総会の決議を経なければならない。

2.株主総会、取締役会および清算人会のすべての決議について拒否権を与える種類株式を発行する場合

株主総会、取締役会および清算人会のすべての決議について拒否権を与える種類株式を発行するための定款の定め方です。

(A種類株式)
当会社が株主総会、取締役会および清算人会で決議するすべての議案について、A種類株式を保有する株主の種類株主総会の決議を経なければならない。

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